東京高等裁判所 昭和52年(う)507号 判決 1977年5月24日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の本刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人山元弘が差し出した控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意第一及び第二(事実誤認及び法令適用の誤りの主張)について
所論は、要するに、本件は、被告人が、知人の川端建夫に頼まれて原判示のけん銃及び実包の売主である〓坂〓に買手の浜中勝美を紹介し、その取引の際、単なる仲介者として、これらを、右〓坂から受取つて浜中に手渡すまで数分間把持したに過ぎない事案であるのに、原判決は右売買に至る経緯や取引時における被告人の行動(買主としてではなく仲介者としての行動)につき正当な認定をしておらず、そのため、法令の適用をも誤まり、これらに対する所持罪の成立を肯認したものである、というのである。
しかしながら、原判決の掲げる各証拠を総合すると、右の取引は、いわゆる堅気である浜中勝美が好奇心からけん銃などを入手しようとしたが、自分が直接買うのは怖いところから被告人に代金三〇万円を渡してその買入れ方を依頼し、被告人がこれを了承して右浜中や他の買手の同席する部屋で〓坂〓からこれらを買入れたうえ、同人が帰つた後右の部屋を出たところの廊下で浜中にこれらを手渡したものであつて(この間に被告人が右けん銃等を把持していた時間は数分間と認められる)、取引の実態をみると、たしかに被告人は〓坂と浜中との間に入つた仲介者といえなくはないが、取引の場所においては被告人が終始買主として行動しており、売主である〓坂らの眼にも買主が被告人以外の者であると明らかにわかるような状況にはなかつたことが認められる。このような売買に至る経緯や被告人が買主として振舞つた行動などに徴すると、被告人がけん銃等を把持していた時間は数分間程度のものであり、かつ売買の際浜中が同席していたとしても、この間被告人は独立して自主的にこれらを自己の実力支配下に置いていたものというべきであつて(仮に浜中の重畳的支配を認めるとしても、被告人が第一次的ないし主導的にこれらを支配していたことは明らかである。)、同人につき右けん銃等の所持罪が成立することは否定できない。所論の引用する当庁昭和四二年六月一二日判決(東京高等裁判所判決時報一八巻六号一八四頁)は、本件と異なり、けん銃把持の自主性が極めて薄弱な事案に関するものと理解できるのであつて、これと本件とを同一に論ずることは適切でない。
原判決が示している事実認定及び法令の適用に誤りはなく、論旨は理由がない。
控訴趣意第三(量刑不当の主張)について
本件犯罪の罪質、態様に照らすと、たとえその所持が数分間に過ぎないものであつても、社会の厳しい非難に値するうえ、本件が執行猶予中の犯行であることを考え合わせると、被告人の刑責は重いといわざるを得ず、同人が本件につき反省し、これを契機にその所属の山根組を脱退する意思を表明していること、被告人の仕事や家庭の状況など所論の訴える諸事情を十分しん酌しても、原判決の量刑が重きに過ぎて不当であるとまでは認められない。論旨は理由がない。
よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、主文2につき刑法二一条を適用する。